自由社版『新編 新しい歴史教科書』でどう教えるか?

2010年4月から、横浜市の8区の中学校で『新編 新しい歴史教科書』が使用されることになりました。これらの区の多くの先生方が、自由社版歴史教科書の採択を望んでいたわけでもないのに、突如として市教育委員会が採択したことにとまどいを感じているのではないでしょうか。 この採択は、公正な採択のために設置された市審議会の答申を市教育委員会が無視し、しかも歴史教科書の採択だけが無記名投票で行われるという責任の所在を曖昧にする前例のない不当なものでした。そのように採択された自由社版歴史教科書は、検定で500か所あまりの指摘を受け不合格になり、再提出のさいにも136か所の検定意見がつけられ、これを修正してやっと合格したものです。しかも、検定で合格しているとはいえ、なお誤りや不適切な部分が多数あり、問題のある教科書です。このような教科書をどのように使用したらよいのでしょうか?
■まず、私たち「横浜教科書研究会」のこと、そしてこれまでのとりくみについてご紹介します。
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信長・秀吉による全国統一(Vol.2)

信長・秀吉による全国統一

    「30信長と秀吉の全国統一」,「31豊臣秀吉の政治と朝鮮出兵」94~96頁

ここで学びたいこと
1 信長・秀吉の全国統一への動き 中学生には、信長・秀吉・家康という有名な3人にスポットを当てて天下統一を見ていくことはわかりやすいと思います。しかし、信長や秀吉を個人的英雄としてのみ扱うのではなく、あくまで3人のとった政策が、何のために、何をめざしたのかを具体的に扱うことが大切です。

2 信長・秀吉の政治 今までの戦国大名と違って、統一を成し遂げつつあった信長は、軍事的な面だけではなく、楽市楽座、関所の廃止など、都市や流通も積極的に支配下に置く政策をとり、さらに秀吉は、領主が先祖代々の土地に住み、維持するしくみ(在地領主制)を否定することで、武士による戦国の争乱を一掃していきました。

3 太閤検地と刀狩 その際秀吉は、「検地尺」と「京ます」を統一し、太閤検地によって、全国の農村を一つの基準で統一的に支配する基礎を推し進めていった点をおさえましょう。また、同時に刀狩をすすめ、身分を制度的に固定化させ、農民の一揆も防ぐ兵農分離をおこないました。こうして、領主としての立場から全国を統一的に支配し、安定した支配秩序を作り出していったのです。

ここが問題

1 94頁16行目「このように仏教勢力を嫌った信長は」というような、仏教に対する個人的な好き嫌いの感情による政策であったような書き方は、事実の本質を見失わせます。比叡山焼き討ちや一向一揆に対する容赦ない弾圧に見られる信長の残忍性には、古い権威を認めない新しい支配者という側面と、民衆の一つの信仰による強固な結束が、天下統一の障害になるとして排除したという側面との両側面があるのです。

2 95頁1行目「楽市・楽座の政策をとって、城下の商工業者には自由な営業を認め、流通のさまたげとなっていた各地の関所を廃止した」という記述のみでは、一方で堺の自治権を奪ったという事実が抜け落ちています「堺の自治権をうばうなど、商人や職人たちを支配下に置く政策もとりました」(帝国95頁6~7行目)という指摘が重要です。また、東書・帝国版では「自由な営業」の中身として、「市場での税を免除した」とはっきり書かれています。具体性がなく、あいまいな表現の「自由な営業」では十分な理解ができません。

3 96頁1~7行目 従来の大名ごとの検地では、土地を測量する長さの単位も、米を量るますの大きさもバラバラでした。太閤検地の意味を理解させるには、全国統一の「検地尺」と「京ます」を使わせたことが重要な意味を持っていますが、書かれていません。東書版では検地によって「全国の土地が統一的な基準であらわされました」と明記し、「検地尺」と「京ます」が写真に載っています。

4 96頁3行目「土地の等級と石高を示す検地帳を作成した」とありますが、土地の等級、石高以外に、測量した田畑の面積を記し、その田畑を実際耕している耕作者の名を記したのです。検地のねらいを考えさせる上で、欠かせないことがらです。

5 検地によって「農民は土地の所有権を認められた」(96頁5~6行目)とありますが、あくまでも、自分の持ち分の、石高に応じた年貢などの負担を義務づけられるようになったという点を、しっかりおさえる必要があります。検地の目的=実際に耕作している農民に土地の権利を認め、年貢を課すため、という点が重要です。

6 刀狩令によって、「こうして身分の区別が確定し、安定した社会秩序がつくられていった」(96頁11行目)という記述があります。刀狩による兵農分離は、武士の争乱と農民の一揆を防ぐという点で「安定した社会秩序」を作り出しますが、それらによって身分が固定化させられ、住む場所まで分けられていく兵農分離の体制が作られるのです。この点をしっかりおさえる必要があります。検地や刀狩によって、農村にいた地侍たちの存在は否定され、農民たちの抵抗をおさえ、安定して支配するしくみがつくられていったのです。

アドバイス

1 自由社の教科書記述は、生徒たちに考えさせるところがない点が大きな問題です。94頁の「長篠合戦図屏風」はじっくり見させ、考えさせましょう。ここでは生徒たちに話し合わせましょう。「大将は、どこにいるか?」「どちらが勝ったと思うか。その理由は?」「戦いの様子は、今までとどこが違ったのか?」「戦国時代にどんな影響が出てくるのだろうか?」など考えさせ、多くの死傷者が出ることにも気づかせましょう。

2 96頁の「検地図絵」から、「どんな人がいるか?」「何を持っているのだろう。」「何をしているのだろう?」「どうやって測っているのだろう?」と発問してみましょう。検地尺を使って、どうやって測るのか、検地尺(帝国96頁の検地尺の写真)を模造し、教室に持ち込んだり、さおの長さを想像したりしながら、いろいろ考えさせましょう。資料集などに検地帳の実物があれば、解読させるのもいいと思います。そして、検地について、農民の気持ちを想像させたり、検地の目的をじゅうぶん考えさせましょう。

3 96頁の「刀狩令」の資料をじっくり読ませましょう。「刀狩とは何をすることなのか?」「秀吉は、何のために刀狩をするといっているのか?」「農民はひたすら何をすればいいと書かれているのか?」と問いかけ、刀狩の目的やその後の社会を考えさせましょう。